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Chad
2010 A PIECE OF CAKE ~チャド難民の現実~
少年との出逢いは突然だった。
人懐っこい笑顔で抱きついてくるその少年は、いつの間にか僕たちの輪の中にいた。
アブダァラ ザガリア シェリーフ (12)
知的障害を持って生まれてきた。まともに喋ることも出来ず、不可解な行動をする少年は“ブゥエ”と呼ばれ愛されていた。
一瞬でブゥエの魅力にとりつかれた僕は、いつも一緒にいた。
灼熱の太陽の下、飽きることなく歩き回るブゥエ。
それはまるでキャンプ内を案内してくれているように、そして僕と難民とを繋げてくれる。
戦闘に巻き込まれる不安、食料や水不足、医者も薬も絶対的に足りない。病気になれば当たり前のように在る死。それは出産時にも例外ではない。働き盛りの大人たちに仕事は無く、子供たちへ教育を与える場も。
ブゥエを通じて、彼らの現実が見えた気がした。そしてここの苛酷な現実は、正に今、世界に広がっている負の縮図を見ているようだった。ここにはすべてが詰まっていた。
そしてすぐに、ここがすべてではないことを悟らせられた。否応無く、この先にある世界中に広がっている問題を想像させられた。
長く続く不安定な暮らしの中でも、彼らはいつか自分の国に帰れる日を待っている。帰ることが出来ずここで死んでいった先人たち、ここで生まれ、まだ自国を見たことない子どもたちの様々な思いがここには溢れていた。
ブゥエは何も語らない。ただ黙って僕をみている。
現在、チャドとスーダンの国境沿いには、スーダンからの避難民が約30万人いる。キャンプの数は優に15を越える。
その中でも国境に最も近い、ここOURE-CASSONIキャンプは、いまだ戦闘の続くダルフールに面しているため環境は他のキャンプに比べて最悪で、生活も危険に晒されたままである。これまでに2度キャンプの移転計画があったが未だに実行されないまま約3万人の難民が暮らす。